はじめに

「スラスター」と「ブースター」について、実際のロケットや宇宙機の画像を交えて説明してみます。

バーニアやアポジモーターに比べると簡単で理解しやすいと思います。

スラスター

フィクションで使うに当たって汎用性が高いと思うこの単語から。

推力(thrust)を発生させるもので、スラスター(thruster)です。

主に小型、小推力の推進器を指しているようです。用途を示す「メイン」とか「RCS」とか「バーニア」とかの単語が付いて呼ばれたりします。

打上げ用ロケットの例(イプシロンロケット試験機)

イプシロンロケット(試験機)の推進系

イプシロンロケットは、2013年から運用されている3段式の打上げ用ロケットです。大隅半島の内之浦肝付町)から打ち上げられています。

画像左上に、3段目の上に付けることができるPBS(ポスト・ブースト・ステージPost Boost Stage[1]の図があり、「スラスタ」の文字があります。

PBSは、ペイロードを軌道に投入する際、高い精度が必要な場合に取り付けられるものです。役割の違う2種類のスラスターが1基と8基で合計9基付いていました。その後改良されてスラスターは1種類8基になっています。

PBSが稼働するところ

他にも、2段目のロール制御を行うガスジェット装置は12基のスラスターからなります。6基が1つのモジュールになっていて、両横に付けられます。2段目のロケットモーターが停止したあとはピッチ、ヨー制御も行います。

イプシロンロケット試験機の各スラスターの推力(一基あたり)
種類 推力(ニュートン) 推力(キログラム重)
ガスジェット(2段目姿勢制御用スラスタ) 23 2.3
PBSスラスター 50 5.1
第1段モーター(以下、推力の参考) 2271000 231700
第2段モーター 371500 37900
第3段モーター 99800 10200

ニュートンもキログラム重(重量キログラム)も力の単位です。5.1kgfと言うと、5kgの米袋と明治のアポロチョコ2箱を(地球上で)持ったときに腕にかかる力がだいたいそんなものです。

種子島から打ち上げられているH-IIAロケットや、2022年8月現在開発中のH3ロケットの2段目などにも姿勢制御用のスラスターがあります。

宇宙機の例(スペースシャトル・オービター)

スペースシャトル・オービター断面図

スペースシャトル・オービター(往還船、軌道船)は、1981年~2011年まで使用された米国の再利用型宇宙船です。3基のメインエンジンを持ち、2本の固体ロケットブースター+外部燃料タンクとともに打ち上げられます。

RCSスラスターと呼ばれるものが大小2種類あります。大が36基、小が6基あり、機首と機尾の左右に固まって付いています。

他にオービタに付いているロケットは、スペースシャトルメインエンジンSpace Shuttle Main Engine(SSME)、軌道制御システムOrbital Maneuvering System(OMS)と呼ばれるものがあります。SSMEは打ち上げ時に、OMSは軌道の変更などに使われました。

各スラスターの推力(一基あたり)
種類 推力(ニュートン) 推力(キログラム重)
RCSスラスター(大) 3870 395
RCSスラスター(小) 110 11
メインエンジン[2](以下、推力の参考) 1752000 179000
軌道制御システム 26700 2720

宇宙機の例(探査機:はやぶさ2)

はやぶさ2のスラスター()

はやぶさ2は2014年に打ち上げられた小惑星探査機です。小惑星リュウグウに到着して表面や内部の試料を回収し、2020年12月6日に試料入りカプセルを地上に届けました。小惑星2001 CC21へのフライバイ後、残りの燃料と2回の地球スイングバイで、2031年に小惑星1998 KY26に接近調査する予定です。

はやぶさ2の各スラスターの推力(一基あたり)
種類 推力(ニュートン) 推力(キログラム重)
μミュー10(イオンスラスター) 0.01 0.001
RCSスラスター 20 2.041
初代はやぶさのμ10(以下、推力の参考) 0.008 0.0008

上記3つの例ではいずれも液体ロケットでしたが、固体ロケット[3]や非化学ロケット[4]でもスラスターと呼ばれるものがあります。

スラスターのまとめ

打上げ用ロケットでは、メインエンジン以外の小さなロケットに使われます。

宇宙機の場合、姿勢制御に使うような小さなロケットはもちろんのこと、メインエンジンと呼ばれるロケットにもメインスラスターと呼称する例が有ります[5]


フィクションでは使い勝手が良さそうに思います。人型巨大ロボットなら、多分背中に付いている2基(もしくは4基くらい?)のロケットエンジンがメインエンジンだろうと思うので[6]、他のは全部「スラスター」でOKでも良さそうな。

バーニアやアポジモーターじゃなくてスラスターって表記されていれば事態は遙かにましだったろうにと思ってしまうのでした。強い影響力を持つ側がよりによってそっちかよ[7]、ってのは時折あることとはいえ。

ブースター

増大させるための装置。ロケットの場合、推力を増大させるために付けられる補助のロケットで、主に第1段目の周りに付けられ、打ち上げのときに利用されます。

固体ロケットブースター

日本や欧米の打ち上げロケットによく使われています。Solid rocket boosterの単語の頭文字を組み合わせた「SRBエスアールビー」と言う言葉がよく使われます。

SLSの固体ロケットブースターSRB

Space Launch System(SLS)は、米国NASAの大型打上げ用ロケットです。2段ロケットで、2本のSRBとともに打ち上げられます。月以遠にまで有人宇宙船を送り込む性能を持っています。

中央の1段目(コアステージ)、メインエンジン、SRBは、スペースシャトルの技術を受け継いでいます。2022年8月29日 9月4日(米国東部夏時間3日) 9月23日 9月28日 11月14日 11月16日、最初の打ち上げに使われたメインエンジン4基は、スペースシャトル・オービターで3~12回使われたものです。

スペースシャトルのSRBは全長45.5m、重量は推進剤込みで約590トンでした。SLSのSRBは全長54m、重量は推進剤込みで約730トンと、それぞれ1.2倍ほどに大きくなっています。

液体ロケットブースター

デルタIVヘビーロケットの打ち上げ

米国の打上げ用ロケット デルタIVヘビー の液体ロケットブースターです。3本の円柱が並んだ形になっていますが、両脇の少し短いのがブースターです。中央のロケットの1段目と同じものが付いています。中央は2段目とペイロードを納めるフェアリングが付いているので長いです。

ロシアのソユーズロケットの場合、ロケット本体の周りに4本、本体と変わらない太さのロケットがついています。アメリカや日本等の感覚ではこれはブースターであり、第何段と呼びませんが、ロシアではこれを第1段と呼んでるようです。書籍などではこれを補助ブースターと書くものもあれば、第0段とするものもあります。


日本のH-IIAでも液体ロケットブースターを装着したものが考えられました(JAXA|標準型以降のH-IIAロケット開発の在り方)が、実現されませんでした。

推力(一基あたり:真空での値だが不明もあるので参考程度に)
種類 推力(ニュートン) 推力(キログラム重)
SRB(SLS) 16000000 1630000
SRB(スペースシャトル) 11790000 1202000
SRB-A(H-IIA、長秒時燃焼モーター) 1750000 179000
SRB-3(H3、計画値) 2130000 217000
RS-68A(デルタIVヘビーロケット、液体ロケットブースター:2012年6月以降) 3560000 363000
RS-25(SLSメインエンジン:以下、推力の参考) 2280000 232000
LE-9(H3メインエンジン) 1471000 150000

他の使い方

「Saturn V booster production at Michoud was several weeks behind schedule in July; parts shortage accounted for some of the delay.」
NASA Historyの「Saturn Illustrated Chronology - Part 5」より1964年7月の一部

打上げ用ロケットの場合、ペイロードより下、本来の意味でのロケットをブースターと呼ぶ場合もあります。例えばアポロ宇宙船を月まで運んだ巨大ロケット「サターンⅤロケット」は、しばしば「サターンⅤブースター」と呼ばれます。アポロ宇宙船を増速させる装置、という意味合いでしょうか。

打上げ用ロケットの1段目をブースターと呼ぶ資料もあったんですがどれだったっけ。

ブースターのまとめ

打上げ用ロケットの場合、推力を増大させるために付けられる補助のロケットです。主に第1段目の周りに付けられ、打ち上げのときに利用されます。

ロケットを高空へ持ち上げるため、打ち上げの最初は大推力が必要とされます。そのため、化学ロケット(固体もしくは液体)が用いられています。

打上げ用ロケットの1段目や全体をブースターと表現する場合もあります。

文書更新履歴

2022年11月16日
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